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昆虫研究にすべてを捧げてきた著者の思いの深さに、深く感じ入るばかりであった。

[ 宮城一春(編集者・ライター) / 2014.01 ]

2013年4月発行
東清二 著
榕樹書林 刊
装幀:沖田民行
A5判/296ページ
2,800円(税抜)
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沖縄昆虫誌(沖縄学術研究双書6)

東清二 著

本との出会いというものがある。

今年、書店の沖縄本コーナーに行くと目に入ってきたのが、東清二「沖縄昆虫誌」(榕樹書林)であった。

白の地色に緑の標題文字。ヨナグニサンの写真が配されただけのシンプルな装丁だが、何故か心魅かれるものがあった。しばらくして資料調べで立ち寄った図書館の新刊コーナーでも見かけた。

シンプルなだけに、沖縄の昆虫たちを見続けてきた著者の想いが詰まっていることを想起させるものであった。

5章仕立てで、第1章の「昆虫とウチナンチュウとの関わり」から惹きこまれた。
しまくとぅばで表現される昆虫の数々は、昆虫たちが、沖縄人の生活に密着してきたことを如実に表すものであるし、自分の生まれ育った地域と、他の地域の呼び方の違いに思わず頬が緩んでしまった。

近年、しまくとぅば復興が叫ばれているが、このような身近な昆虫名を調べてみるだけでも、子どもたちに、しまくとぅばの面白さを伝える手段にもなりえることを知らせてくれた。

そして、琉歌や民謡・おもろに出てくる昆虫の解説も新しい視点である。 特に、おもろなどは、見ただけで難しいと思ってしまい、読むことを敬遠しがちだが、本書のような視点で読むと、まったく新しいおもろの世界が広がっていくようにも感じた。

民俗行事や遊びなどに登場する昆虫を採りあげた文も、もっと読みたいと思わせる内容。行事の由来や意味、遊び方に注意を向けがちだが、昆虫を主人公にしても、考察できるということを教えてくれた。

第2章の「琉球列島の昆虫相とその特徴」も読ませてくれる内容。
ここで、沖縄の昆虫が7732種記録されており、日本に分布する昆虫の24.5%を占めていること。それを踏まえて日本全体と比較し、「琉球列島では面積当りにみて昆虫の種類が多い、といえるし、種密度は極めて高い」という結論を導き出している。

そして、昆虫の分布型や地史・昆虫相の解説に移っていく。 昆虫の歴史や渡来経路、近縁種や移動方法など研究者らしい細かさで解説してくれる。琉球列島という狭い地域だけで見るのではなく、アジアや世界規模で昆虫たちをみることのできる貴重な章であるといえよう。

一気に読み通したのが第3章。リュウキュウハグロトンボからフタオチョウまで100種の昆虫との出会いが描かれている。

著者の昆虫に対する視野の広さと愛に満ち溢れているだけでなく、昆虫の生息地域の文章からは、私たちの住む沖縄県の環境を守ることの大事さも考えさせられた。
出会いを詳細に記憶していることにも驚くが、その知識の深さにも感嘆させられるのである。

ただ、文章だけの展開は、はやり不親切。定価設定の問題もあるのだろうが、一つひとつの昆虫を文章とともに掲載してほしかった。

第4章・第5章は、研究者としての著者の世界満載。現在の研究成果や道のりが丁寧に記載されており、先人たちの業績の大きさや、感謝の念をも感じ取れる内容となっている。

そこには、昆虫研究にすべてを捧げてきた著者の思いの深さに、深く感じ入るばかりであった。昆虫たちが、まさに愛すべき存在として現れてくる書といえよう。

残念だったのは、表記の間違いがいくつか見られること。『おもろさうし』を「おもろそうし」と表記されたり、嘉津宇岳を勝津宇岳と表記したりしている。著者の問題ではなく、編集者の問題だと思うが、素晴らしい内容だけに、残念でならない。

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