命の大切さ、そして地に足をつけて生活することの大事さを教えてくれる写真集である。

[ 宮城一春(編集者・ライター) / 2014.01 ]

2013年10月発行
大森一也 著
南山舎刊 刊
装丁:山盛誠
B5判/264ページ
2,900円(税抜)
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来夏世 ―祈りの島々 八重山―

写真・文:大森一也

真っ白な地色に厳かな場所へ向かっているであろう神女たち。 モノクロ写真であるからこそ、見えてくる神々しいばかりの光。そして少し遠慮がちに配されながらも、金文字で、存在感を主張する題字。

本書『来夏世』は、装丁から凝った本である。しかし、それが押しつけがましくない。シマに生きる人々の祈りの姿や、何気ない表情で展開される内容が集約されているようである。

そしてシマに満ち溢れる光が強く印象に残る。命の大切さ、そして地に足をつけて生活することの大事さを教えてくれる写真集である。

著者の大森氏は、筆者に
「命の大切さや地に足をつけて生活する大事さ。直接的には日常生活を撮ってはいないのですが、地に足をつけた生活がなければ、生まれてこない表情であり、躍動であり、祈りだからです」
という言葉を与えてくれた。

まさしく、地域の人々と、真摯な姿勢で、向き合っているからこそ撮影できた写真の数々だと思う。

私は、特に写真集に掲載されるような写真は見るだけでなく、読むものだと常々思っている。

その意味では、本写真集も存分に読むことができたといえる。表情はもちろん、背景や服装など、敬虔な気持ちになり、楽しくなり、面白さを感じ、存分に堪能することができるのである。
以前、ニライ社から出版された比嘉康雄氏の『神々の古層』を彷彿とさせる写真集でもある。

巻末の撮影メモも、写真の深みが増す効果があり、最初は写真のみを読んで、写真本来の面白さを堪能し、巻末メモで、写真の奥に潜む著者の思いに触れることのできる二重構造ともなっている。

そして、各章の文言はキャッチコピーとしてもうなづけるものであり、各章巻頭の詩も写真の内容を補完するだけでなく、その一篇でも著者の世界を味わうことのできるレベルの高いものとなっている。そのような編集の良さも印象に残った書である。

ただ、波照間永吉氏の『「世ば稔れ」考』は、唐突な印象を受けた。それまで「世ば稔れ」という言葉が出てこないからだ。

あとがきをよむと、「あぁ、そうだったのか」と納得できるのだが、波照間氏の書いている内容が面白いだけに、きちんとした説明が欲しかったのは私だけであろうか。

また、角背だからなのであろうか、本の開きが悪いように感じるし、『「世ば稔れ」考』以降の紙質を変えた箇所の製本強度も気になるところであった。

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