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歴史小説ならではのフィクションと、ノンフィクションを取り混ぜた展開に時間を経つのも忘れて読んでしまう。

[ 宮城一春(編集者・ライター) / 2014.01 ]

2003年9月発行
与並岳生 著
新星出版 刊
A5判/762ページ
3,200円(税抜)
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琉球王女 百十踏揚

与並岳生 著

よく歴史のロマンという言葉を聞く。昔に思いを馳せて、郷愁ある世界を創造しての言葉だろうと思う。

しかし、現実の世界にロマンという言葉の持つセンチメンタルさを見ることができないように、過去の出来事にしたって、厳しくどろどろとしたものであったに違いない。そういう観点で時代を読み込んでいくと、より、歴史上の人物像が身近なものに感じられてくることだろう。

本書「百十踏揚」は、現代の我々よりももっと、自分の欲求に忠実であったであろう時代。その時代に翻弄されながらも、自我を貫こうとした琉球女性2人(百十踏揚と思戸)の姿を中心に描かれている。
その中には、政略的な役割を果たさざるを得なかったステレオタイプの女性達の姿と、自分らしく生きようとした本書の中の女性の姿の相違と、同一さが見えてくる。

現代は女性の時代ともいわれ、かつてないほどに、女性の社会的地位は、各段にアップしている。しかしその反面、社会の規範に縛られ、囚われすぎている女性が存在することも否定できない。

歴史的にみると女性の人権は無視されていた時代が長かったという。事実、名前も記録に残っていない女性も星の数ほどいる。そんな時代、歴史の渦や人間の欲望に翻弄されながらも生き抜いたのが、百十踏揚であろう。

沖縄女性史の中でも語り継がれるヒロインとして有名な人物を、本書ではどのように描いているのだろうか。

時代は15世紀。琉球を統一した第一尚氏の時代。とはいえ、戦国の世を生き抜いてきた武将たちや、深慮遠謀を巡らす野心家たちが虎視眈々と時代を睨んでいる頃。

本書は、脆弱な基盤の中で、琉球を安定した世界にしようと心を砕いていた尚泰久の時代。現在では、第一尚氏と称せられているが、当時は第一などという冠を被せることなく、御主加那志前として存在しており、勿論、その後の展開がどうなっていくかは知らない。

それから始まるのが、琉球の歴史上有名な百十踏揚の降嫁。それから急展開で進んでいく物語。護佐丸や阿麻和利、鬼大城、金丸(将来の第二尚氏の祖尚円)ら琉球歴史史上有名な人物が登場し、それぞれの思惑に満ちた行動を取っていく。

ここが歴史小説の面白さであり、歯がゆさなのだが、後世の私たちは結果を知っている。しかし、登場人物たちは知らない。それどころか、知っている結末に対して、まっしぐらに突き進んでいく。そのジレンマと、だからあのような結果になったのかという納得感。

点で知っていた護佐丸や阿麻和利の乱がどのような経過で起こったのか。鬼大城は、どのようにして歴史の上から抹殺されたのか等々、点でしか見えてこなかったことが、線となって見えてくる。この快感。歴史小説ならではのフィクションと、ノンフィクションを取り混ぜた展開に時間を経つのも忘れて読んでしまう。

この小説には、そんな魅力が隠されている。それには、著者の与並岳夫さんの詳細な検証と、丁寧な考証があってこそ。

この場であらすじを書くわけにはいかないので、アウトラインだけを書いたが、琉球の歴史に興味のある方、これから知りたいと思う方には絶対お薦めの大著。頁数が多いので、気張ることなく、ゆっくりと時間をかけて読むことだろう。

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