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本書の新城さんは、まさしく職人そのものであり、限りない自分の世界を持っている方なのだ。

[ 宮城一春(編集者・ライター) / 2014.01 ]

2003年6月発行
安本千夏 著
南山舎刊
B6判/185ページ
1,650円(税抜)
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潮を開く舟サバニ  ―舟大工・新城康弘の世界―

安本千夏 著

良い本に出会えたときの喜びは、何ものにも代えがたいものがある。人それぞれ好みがあるので、押しつけることはできないが、中には是非たくさんの方々に読んで欲しいと思う本がある。

そして、その本の面白さや独自さなどを話すのだ。読書の面白さ、あるいは醍醐味といってもいい時間だ。しかし、そのような本に出会うことは少ない。

私は根っから吝嗇(りんしょく)な人間なので、面白い本があると、人知れず隠し持っていて、密かに読むのが好きだ。たまに、本の話をしていて意気投合し、作家論や作品論にいくこともあるが、それは極めて稀。滅多にないことだ。

一人本を読む。隠微な世界がそこにはある。

そんな吝嗇(りんしょく)な私が、大いに人に勧め、面白いでしょ! と念押しし、知人や県産本で面白い本がありますかと聞いてきた方へ、イチオシの本として紹介したのが本書。その年の琉球新報年末回顧に書いた文章を引っ張り出してみよう。

今年の出版物は464点が沖縄タイムスの出版文化賞において計上されている。物足りなさを感じた昨年に比較して、153点も多く出版されており、今年の沖縄本は質量ともに、近年稀に見る傑作揃いであったといえよう。ただ、本稿を書くに当たって断っておきたいが、今年は、県産本を読むのに忙しく、沖縄本全体を俯瞰することができなかった。従って、本年の出版の年末回顧では、県産本のみにとどまることをお許しいただきたい。それぐらい今年の県産本は豊作年であったと断言したいのである。

(中略)

その中で、私が今年一番印象に残ったのが、安本千夏「潮を開く舟サバニ」(南山舎)。サバニ造りの全工程を追いながら、舟大工・新城康弘氏の生き様や、サバニが、海人の叡知と結晶とであることを知らされた。何より、新城氏の言葉が名言揃い。職人として生きる人ならではの世界観を披瀝しており、取材した安本氏の丁寧な文章が独自の世界に誘い込んでくれる。(2003年琉球新報「年末回顧」より)

どうです。惚れ込んでいるのがわかるでしょう。

まず、表題の『潮を開く』という言葉に参ってしまった。サバニって、海を走る姿を見ると、本当に潮を開きながら走っていくという感じがするでしょう。

序文に、池間島ではサバニのことを『スウニ(スウは潮、ニは舟のこと)』とあるけど、それでも潮を開く舟という表現はいいですよね。しかし私は、表題に限らず、安本さんの表現力に魅かれていったのですね。

それと、舟大工である、本書の主人公、新城康弘さんの言葉がいい、そして表情がいい。私は職人の世界に非常に憧れを持っているのだが、本書の新城さんは、まさしく職人そのものであり、限りない自分の世界を持っている方なのだ。

本書は、安本さんと、新城さんの出会いがなければ、決して産まれてこなかった本だ。私はその出会いに感謝したい。それは、必然であったと思いたい。でなければ、このような素晴らしい本ができるはずがないから。

本書の中には、新城さんと安本さんの信頼関係があり、新城さんの仕事ぶりを熱心に見守る安本さんがおり、優しい眼差しで語り合う二人の姿がある。本書の中の新城さんの写真にはお互いが信頼していなければ映し出されない、プロの世界同士の理解がある。

語彙力の不足している私では、本書の魅力をうまく表現できない。だからこそいいたいのだ。
「本書は是非読むべきですよ」「絶対に魅きこまれていきますよ」

安本さんの文章を、本書以外でも読んでみたいと痛切に思う。次はどんな本を書いてくれるのだろう。そんな期待を抱かせてくれるライターに久々に出会ったような気がする。

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