Home > 沖縄本をさがす >アカインコが行く

百十踏揚や玉城朝薫、歴代の琉球の王たちを取り上げてきた 与並岳夫ワールド炸裂な小説。

[ 宮城一春(編集者・ライター) / 2014.05 ]

2008年3月発行
与並岳夫 著
琉球新報社 刊
A6判/287ページ
1,429円(税抜)
出版社のホームページへ

琉球吟遊詩人 アカインコが行く

与並岳夫 著

三月四日のサンシンの日。読谷の赤犬子宮で演奏される「かぎやで風」を聴きに行ったことがある。

たくさんの人がいるにも関わらず、静寂さえ感じられる時間だった。そんな雰囲気の中で爪弾かれる三線の音色を聴きながら、

歌と三線の

むかし始まりや

犬子音東の

神の御作

と謳われるアカインコってどのような人物だったのだろうかと想像を巡らせた。

隆盛を極めていると表現しても過言ではないだろうと思う、昨今の沖縄芸能。
その沖縄芸能に多大な影響を与えたアカインコは、一体どのような人物であったのだろうか。

どのような風貌であったのだろうか。

身長は?

体重は?

などと、考えても意味がないようなことまで考えた。

荘重な琉球音楽の調べを聴きながら……。

日々の生活に追われ、そんなことを考えていた過去の思いも忘れていた。しかし、それを具現化してくれた書が現れた。それが本書。

フィクションでありながら、見事なまでに伝説上の人物アカインコを描ききっている。
歴史上の人物として、百十踏揚や玉城朝薫、歴代の琉球の王たちを取り上げてきた与並岳夫ワールド炸裂な小説なのである。

それどころか、文献資料が少ない分、与並氏の想像や検証が更に深くなった感さえあり、最後まで息つく間もなく読んでしまう内容ともなっているのだ。

しかし、まだ物足りない感じもする。与並ワールドのアカインコの世界を充分に読ませて欲しいと思うのだ。
大げさにいえば、飢餓感さえ覚えてしまった。あえて難癖をつけるとすれば、もっとアカインコの日常を書き込んで欲しいと思うほど。

本当にワクワクするし、好奇心を満足させてくれる。そこには、人々の楽しみや悲しみ、賢さや愚かさなど、人間が生活している中での様々な要素が描かれている。

さらには、古琉球時代にワープすることもできる。 歴史って難しいものではありませんよ。与並岳夫の世界に触れると面白さが判ってきますよと教えてあげたくなる。

三線をつま弾く方々に、アカインコってどんな人物だったと思うって、教えてあげたくなる、困った作品でもある。

与並岳夫が描く歴史・時代小説は、一種の冒険小説なのではないだろうか。そんなことをも考えさせられる。

さて、与並岳夫は今後どんな冒険を、歴史・時代小説の中で展開してくれるのだろうか。楽しみな作家である。

このページの先頭に戻る