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現実を写し撮った写真を眺めているにもかかわらず、ひょっとして幻想なのではないか、といぶかしむ。

[ 大森一也(写真家・編集者) / 2014.11 ]

2013年07月発行
写真:西野嘉憲/解説:大場裕一
岩波書店 刊
A5判/82ページ
2,500円(税抜)
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光るキノコと夜の森

西野嘉憲 著

この本が発刊された2013年、もうすぐ2歳になる娘と一緒にこの本を見た。幼い子どもは現実と幻想世界の敷居が低く、そもそもはっきりとした区別を要せず、不思議な世界にひたすらに没入する。そして大人は、現実を写し撮った写真を眺めているにもかかわらず、ひょっとして幻想なのではないか、といぶかしむ。本書は子どもから大人まで魅了する、美しい絵本のような写真集だ。

神秘的な光るキノコに目を奪われがちだが、「夜の森」の表現が秀逸だ。奈良の大台ヶ原、八丈島、父島、やんばる、石垣島、それそれの森は漆黒の闇ばかりではなく、紫の薄闇に、深く沈んだ緑の闇に、木立が、木の葉が、半ばシルエットになりながらもうっすらと形をとどめる。木立から透けるくぐもった優しい光は、森の湿度や静けさを伝え、月や星、葉の隙間からこぼれる粒状の点光は、生命を宿したキノコの光と響きあうように硬質なきらめきで森の闇を彩る。ところどころ、朝や夕べ、そして雨に煙る昼の森を俯瞰するカットが挟まれていたり、虫やカエル、鳥たちの姿がのぞくところが「生きた森」の姿を感じさせ、なおいっそうに想像をふくらませる。

だが、私たちには美しい幻想のように思えるこれらの光景は、ハブもひそむ森の中へもたんねんに足を運び、卓越した撮影技術と芸術的感性で映像化した、作者の多年にわたる現実的努力の結晶である。たやすい偶然から生まれた結晶の輝きではない。

その点では大場氏の解説も同じで、謎に満ちた発光キノコにまつわる世界を科学的に、そして時には興味深い逸話や伝説も交えやさしく解き明かしてくれているが、この、やさしく解説できることこそ、筆者の深い知識や不断の研究努力を物語って余りある。

人が現実と思って認識している世界は、深遠で多様な世界のごく一断面に過ぎない。幻想と見まがう不思議で美しい世界が、すぐ足元の森にもあることを教えてくれたお二人に感謝したい。

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