Home > 書評 >島想い

島の出身者は自分がどこにいても島を想い、島で暮らす人々も常に島を想う。

[ 大森一也(写真家・編集者) / 2014.12 ]

2012年08月発行
山下恒夫 著
リバーサイドブックス 刊
A4横変形/84ページ
3,800円(税抜) 限定600部

島想い

山下恒夫 著

見えないものを写真に写すのは、なかなか難しい。といっても心霊写真のことではない。形あるものを記録として写し残すことも大切だが、見えない気持ちを感じ取り、表現し、第三者にも伝えるということは、機械が成すよりも人間が優れた部分の一つであり、正にアートの範疇である。そして、その感受性や表現能力に優れた作品は人に感銘を与える。

島の出身者は自分がどこにいても島を想い、島で暮らす人々も常に島を想う。島人のそうした心情にふれる場面は時々あるが、目に見えない「想い」を写真集として見る者にも伝えてくれるのが、山下恒夫さんの第3作目の写真集『島想い(shimaumui)』だ。

学生時代から数えると足掛け30年近くも沖縄に通い続けている山下さんだが、これまでの写真集のなかの過半数の作品は八重山で撮影されたものである。

写真集が発刊された年の11月、西表島の船浮小学校では児童二人の運動会が行われ、地域住民はもとより近隣の住民や他校の教職員も海を渡って駆けつけた。そうした人々のなかに山下さんの姿もあった。近年は地域や学校のために船浮や鳩間の運動会の全プログラムを撮っているのだそうだ。「作品のためというより、だんだん児童や学校のために撮るようになってきた」と話していたが、本書に収められている船浮の過去の運動会の写真も、自分の都合だけで切り取られた光景ではなく、極小規模の学校を支え見守る者の温かい眼差しにあふれている。

桟橋に別れの紙テープがなびくなか、見送る運動着の少年の写真。帰り船には海を越えて来てくれた、かつての先生も乗っている。少し視線を落とした少年の横顔は多くの想いを物語る。鳩間島の豊年祭の翌日に納骨に向かう葬列はもちろん、村の路地や畑、家の中の扇風機といった人が不在の写真ですらすべて、島で暮らす人々の想いや気配に満ちており、都会で暮らす島人であれば、その気配に懐かしさを覚え何度も頁を繰るのではないか。

書名の「島想い」には島人の想いのみならず、著者本人の南の島々を想う気持ちが重ね合わされているに違いない。

このページの先頭に戻る