年末回顧 1996(県内・出版)

琉球新報 1996年12月27日 朝刊 文化面 掲載
宮城一春(県産本ネットワーク事務局)

時代の流れの中で刊行 「代理署名裁判沖縄県知事証言」
才能の発掘の大切さ 砂川智子「楽園の花嫁」

今年の出版物は二百九十四点が沖縄タイムス社の出版文化賞において計上されている。

今年の出版界で特筆すべきことは、時代の流れの中で刊行された企画が多かったことが挙げられるであろう。特に、米兵の少女暴行事件から県民大会・知事代理署名拒否・県民投票という、まさしく日々変動していく時代の中、『代理署名裁判 沖縄県知事証言』(ニライ社)の刊行はまさしく本年前半の時代そのものの記録であり、戦後沖縄ひいては日本という国の姿を見せてくれた。また、『基地沖縄二~四』(琉球新報社)は、緊急出版という形で記事をまとめあげ、沖縄タイムス社は『五十年目の激動』で一年間にわたる報道を検証し、再確認を行っている。我々が今生きている時代を切り取って見せてくれたこの三冊は、めまぐるしく変化していく情勢を再現させる格好の書となろう。

他に今年も県外版元の沖縄本出版が印象に残った。特に昨年沖縄戦にこだわり続けた高文研は、『「安保」が人ひき殺す』森口豁、岡本恵徳『現代文学にみる沖縄の自画像』で、政治・社会が密着した状況と、文学というフィルターを通して戦後沖縄の姿を見せてくれた。また、我部政明は『日米関係の中の沖縄』(三一書房)で、グローバルな視点から三者の関係を解き、『燃える沖縄・揺らぐ安保』(社会批評社)で知花昌一は他の媒体よりもっと踏み込んだ形で自らの信念を表し、安仁屋政昭著『沖縄はなぜ基地を拒否するか』(新日本出版社)、新崎盛暉『基地のない沖縄を』(凱風車)、新川明『反国家の兇区』(社会批評社)で沖縄を代表する論客が他府県への問いかけやメッセージを県内版元からではなく、県外版元から刊行しているのも面白い事実である。これらは、県内外版元の営業基盤や、読者の求める本の違いにも関係しているように思われるが、いずれにせよ、県内の版元では出版しづらいジャンルの本を出版し続ける県外出版元の編集者のこだわりと思いに敬意を表したい。

他の県内の版元に目を向けると、『楽園の花嫁』砂川智子(ボーダーインク)は、著者の視点の新しさが印象に残った。才能の掘り起こしの大切さを教えられた本であった。儀間進『続うちなぁぐちフィーリング』(沖縄タイムス社)で、ウチナーグチ・ウチナーンチュの感性や面白さをあらためて教えてくれた。これからもその健在ぶりを発揮してもらいたいものである。自然関係書では東清二著の『沖縄昆虫野外観察図鑑』が本格的な昆虫図鑑で掲載種の多さ、付属資料の豊富さで印象に残った。他に安次嶺肇の『おきなわ蝶物語』(ニライ社)は写真とエッセイで蝶を語っている。自然環境の本として沖縄県教育資料文化センターの『消えゆく沖縄の山・川・海』も、我々が何を成しえるかを考えさせられる書である。

他に藤木勇人は一人芝居台本集『うちな~妄想見聞録』(沖縄出版)で、沖縄の持つ面白さとウチナーンチュの姿を独自の視点で描き、『太陽雨の降る街』で新城和博は、等身大の沖縄を音楽や独立論で展開している。また、『島立まぶい図書館からの眺め』(ボーダーインク)は、多数の著作物の中から、お馴染みまぶい組の面々が島々に関するお薦め本をまとめ、「おきなわ文庫」で松島朝彦は沖縄のアイデンティティーに関するこだわりを『沖縄の時代』で著し、『沖縄新民話の系譜』で沖縄の人々を魅了してやまない民謡を大城学が論じている。

また、今年の刊行物では、同一企画出版が目についた。女性を扱った書として、高里鈴代が『沖縄の女たち』で現代沖縄の女性たちを、敗戦後から論証してどう生きるべきかを説き、『時代を彩った女たち』(琉球新報社編・ニライ社)は時代を支え、時代のうねりの中で懸命に生きてきたたくましき沖縄の女性たちを描いている。グスクを主題にとったものでは名嘉正八郎の『図説 沖縄の城』(那覇出版社)、『おきなわグスクめぐり』(むぎ社)がそれぞれ、ガイドや歴史の中で浮沈してきたグスクを誠実に記している。

戦争関連書としては、大田静男の『八重山の戦争』(南山舎)が、これまでの沖縄戦関連で取り上げていない八重山の戦争を扱った好著。戦記や証言集とは違った視点で、印象に残った。

他には『自由研究』『あそびの図鑑』という大型企画で今年も気を吐いた沖縄出版、小波津貞子『ふるさとひと暦』、福地昿昭『豊兵隊』(共に那覇出版)、『沖縄反骨のジャーナリスト』(ニライ社)、玉木順彦『近世先島の生活習俗』(ひるぎ社)、『泡盛浪漫』、地域科学研究室『新琉球―地域文化論』(共にボーダーインク)、仲地清『琉球の島々と沖縄の人々』(沖縄タイムス社)などが印象に残った。また、県内の版元ではないが『沖縄が独立する日』なんくる組(夏目書房)は、タイトルの斬新さといい、県内外に影響を与えた本であった。

(琉球新報社提供)

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