年末回顧 2000(県内・出版)

琉球新報 2000年12月27日 朝刊 文化面 掲載
宮城一春(県産本ネットワーク事務局)

読者のニーズ開拓 タイムリーだったグスク本

二〇〇〇年の今年、県内出版物は、四百点が沖縄タイムス社の出版文化賞において計上されている。今年の出版物は昨年より百十点多く、豊作であった昨年を質量ともに陵駕したといってもいいだろう。もちろん九州・沖縄サミットの開催や、グスク群世界遺産登録などといった出来事に伴う出版物もあったのだが、それとは別に著者や版元、何よりも読者のニーズに応えた書籍の発行が多かったことが挙げられるだろう。

今年の特徴としては、地元版元の独自性のある出版物もさることながら、本土出版社から刊行された書に印象に残るものが多かったことが挙げられる。そのひとつが沖縄オバァ研究会「沖縄オバァ烈伝」(双葉社)。発刊されてから書店での売り上げはもちろん、ラジオ番組やテレビにも取り上げられ、沖縄のオバァの面白さ、たくましさを教えてくれた。本土側の編集者が皆から親しまれるオバァたちの面白さに気づき企画編集したこの本は、県内のライターが書き評判を呼んだ。沖縄の素材が、本土の人間にも認知され読まれたということで、これからの沖縄本の新たな道を拓いたものとして印象に残った。

宮城晴美「母の残したもの」(高文研)は、沖縄戦当時の座間味島での体験記を母と子の関係で綴り、朝日新聞社「沖縄報告サミット前後」(朝日新聞社)は、サミット前後の沖縄の正と負の状況を、新聞社らしい冷静な筆致で描き出している。また、宮里千里「ウーマク」(小学館)は、本土復帰当時の少年時代の生活を振り返って描いた抱腹絶倒の本。当時のことを昨日のように思い出す読者も多かったことだろう。

他に仲村清司「爆笑沖縄移住計画」(夏目書房)では、本土から移住してきた沖縄二世の著者と、沖縄病患者の妻との生活記がユーモアたっぷりに描かれている。伊藤嘉昭「沖縄の友への直言」(高文研)も、沖縄を愛するがゆえに厳しいことを言わざるをえない著者の思い入れが感じられた。

このように、移住者という視点からの本の充実ぶりも今年の沖縄本の特徴といえよう。移住者本は沖縄の版元からも、沼波正「私の見た沖縄経済」(ひるぎ社)、高村真琴「コザに抱かれて眠りたい」(ボーダーインク)、ゆたかはじめ「沖縄に電車が走る日」(ニライ社)などがあり、それぞれに読み応えのある本だった。 そのほか本土版元からの出版物として、NHK沖縄放送局「隣人の素顔」(NHK出版)、新崎盛暉「沖縄の素顔」(テクノ)、西岡敏・仲原穣「沖縄語の入門」(白水社)、森本和子「楽園をつくった男」(アースメディア)などが印象に残った。

地元版元の本では、金城吉男「沖縄の野鳥たち ヤンバルクイナの見た夢は」、「21世紀に残したい沖縄の民話21話」、山口栄鉄「外国人来琉記」、野々村孝男「懐かしき沖縄」、「沖縄20世紀の光芒」などを刊行した琉球新報社が印象に残る。いずれも現在の沖縄の状況や、過去の沖縄、そして未来へと時宜を得た出版物であった。

一方、くしくも緊急出版として「写真グラフ沖縄サミット」(琉球新報社)、「サミット・沖縄からの報告」(沖縄タイムス社)が刊行されたが、表紙の写真が同じであったことに驚いた。内容がよかっただけに、もうひとつ工夫が欲しい写真集となってしまったような気がする。

琉球新報社は世界遺産登録後に、「琉球グスク群」「グスク紀行」の二冊を出版した。このような時機に合わせての出版というのは、新聞社ならではの刊行物だと思うので、これからも両新聞社には頑張ってほしいと思う。その意味では、宮良信詳「うちなーぐち講座」、「長寿の教え」、ブックレットとして「沖縄ニュースファイル1999」「沖縄の世界一・日本一」、「ウミンチュ見聞録」を出版した沖縄タイムス社も印象に残った。

また、版元の独自色が鮮明に出てきたのも最近の特徴といえるが、今年も原田禹雄「重編使琉球録」、原田禹雄「冊封使録からみた琉球」、松井健「自然観の人類学」、高宮城宏「真説阿麻和利考」などといった、重厚な本を出版し続ける榕樹書林、同じ装丁でやさしい文章でまとめたシリーズを発刊する沖縄文化社の「沖縄の伝統工芸」、加治順人「沖縄の神社」、古塚達朗「名勝『識名園』の創設」といった沖縄文庫のひるぎ社の活動も健在であった。

毎年インパクトのある本を出版するボーダーインクは、青木誠「沖縄うたの旅」、上西重行「写真集夢から来た景色」、日独子ども俳句サミット宮古島実行委員会「日本とドイツの子ども俳句集」、平川宗隆「沖縄トイレ夜替わり」を出版している。他に、勝連繁雄「南島の魂」(ゆい出版)、岡本恵徳「沖縄文学の情景」(ニライ社)、金城明美「ケーイ」、嵩西洋子「紀和へ。母の花だより」、三木健「八重山を読む」(南山舎)なども印象に残った。

それと忘れていけないのが宮良笑「笑の泣き笑い物語」、座波貞子「サダちゃん先生心の軌跡」、仲本朝勇「琉歌立雲」などに代表される自費出版物や、南風原町「南風原町史第二巻自然地理資料編」、名護市「5000年の記憶 名護市民の歴史と文化」、沖縄市「koza bunka box」、沖縄県「小橋川秀男 永久少年の夢と生涯」などといった地域史の充実ぶりも目立った。

これまでの堅いイメージから、写真やイラストを駆使し、わかりやすく、装丁も手に取りやすいように編集している。ただ、価格も手ごろでよいのだが、一般書店での購入が難しいので各市町村で考慮してもらいたいものだ。

いよいよ二十一世紀、今年のみでなく二十世紀の沖縄本をふり返ってみると、著者の思いだけではなく、編集者や版元、読者がなくてはならない存在であったと思う。これからも沖縄本への思いを胸に抱えつつ、新世紀の沖縄本の世界を作り続けていただきたいと思う。是非、読者の皆さんも、作り手の思いを感じつつ、独自で面白い本の数々を楽しみに待っていて欲しいと思っている。

(琉球新報社提供)

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