年末回顧 2006(県内・出版)

琉球新報 2006年12月27日 朝刊 文化面 掲載
宮城一春(県産本ネットワーク会員)

「ハンセン病証言集」圧巻 新刊500点余も 内容寂しく

今年の出版物は五百十点が沖縄タイムス社の出版文化賞において計上されている。今年の沖縄本は私が知る限り初めて五百点を越し、たくさんの本が出版されたものの、内容は例年になく寂しいものであったといわざるを得ない。しかし、そのような中でも存在感を示した沖縄本が刊行されている。特に印象に残った本を紹介していこう。

今年、私が内容の重厚さと編著者の熱い思いに圧倒されたのが、沖縄県ハンセン病証言集編集委員会「沖縄県ハンセン病証言集 資料編」であった。B5判・八百五十ページにも及ぶ大著で、ハンセン病の歴史や差別の実態、その中で懸命に生きる患者の方々の様子が描かれている。

本書は、二〇〇六年の出版という枠に止まることなく、沖縄本の傑作として永く人々の記憶に残ることだろう。多くの方が本書を読むことによって、ハンセン病を正しく理解し、患者の方々と共に生きることを考えていく書となることを期待したい。

■女子学徒の記録
また、今年の出版界を席巻し、御願ブームを巻き起こしたのが、よくわかる御願ハンドブック編集部「よくわかる御願ハンドブック」(ボーダーインク)。近来稀に見るベストセラーとなったこの本は、地域色が薄れつつある昨今の沖縄において、新たなる御願の世界ができていることを実感させてくれた。伝統を継承しようにも、どのようにすればいいのかを模索していた読者層の開拓につながったのではないかと思うが、県産本ならではのジャンルであり、県産本の歴史に輝かしい足跡を残したといえる。

そして、毎年違った視点で戦争の実態を伝える沖縄戦関連書。青春を語る会「沖縄戦の全女子学徒隊」(フォレスト)は、沖縄戦の悲劇を代表する女子学徒隊全てを記録している。単なる沖縄戦の体験記録を掲載するだけでなく、女子学徒たちの青春時代や、戦後の動向、次世代への思いが綴られている。戦争を実体験した方々でしか表現できない内容が掲載されており、戦争を二度と引き起こしてはならないという強い意思が伝わってくる好著であった。

■新琉球王統史 完結
沖縄戦関連では、尖閣列島戦時遭難死没者慰霊之碑建立事業期成会「沈黙の叫び」(南山舎)も心に残る一冊であった。太平洋戦争末期に起こった尖閣列島付近で起こった遭難事件を体験者からの聞き書きや資料を駆使して、その悲劇性を浮き彫りにしている書で、あまり知られることのない事件をあますことなく伝えてくれる。

他に驚かされたのが、与並岳夫「新琉球王統史」全二十巻(新星出版)。昨年末から発刊の始まった本シリーズは、著者の並々ならぬ筆力で完結した。百度踏揚、玉城朝薫を描いた長編小説から一変して、歴代の国王をわかりやすく短くまとめた本書は、独自の与並史観に磨きがかかった今年を代表する発刊物といえよう。

児童書分野で記憶に残ったのが、松崎洋作・船越義彰「おきなわの路面電車」(ニライ社)。大正から昭和初期にかけて那覇市内を走っていた路面電車をコンピュータグラフィックと当時を彷彿とさせる文章で郷愁の那覇を見事に切りとっている。また、たいらみちこ「ぶながやと平和のタネ」(紅型工房ぶながやみち)も、平和を希求する著者の思いと紅型染めの優雅さがマッチした絵本であった。ほかに佐々木健志・山城照久・村山望「沖縄のセミ」(新星出版)は、セミを題材に沖縄の自然の豊かさと、セミに接することの面白さを教えてくれた。セミの鳴き声を収録した付録CDも出版の可能性を示してくれた。

■季節の花 独自編集
他に印象に残った本を挙げてみよう。アクアコーラル企画編集部「亜熱帯沖縄の花」アクアコーラル企画は、独自の編集で季節の花を掲載している。太田良博「黒ダイヤ」(ボーダーインク)は、著作集として四冊目。太田氏の独自の文学的な世界を見せてくれた。エフエム沖縄「沖縄のゴミをなくす本」は、ゴミ問題に県民自らが動かなければならないことを教えてくれる好著。読みやすい体裁と優しい文章で沖縄の良さを伝えてきた沖縄文化社は今年も松本嘉代子「沖縄の行事食」で、伝統の素晴らしさを表現している。岡本定勝「記憶の種子」(ボーダーインク)は、山之口貘賞受賞の実力を見事な装幀で見せてくれた。座間味栄議「沖縄の魔よけとまじない」(むぎ社)も今年ブレークした御願本といえる書で、沖縄の奥深さを伝えている。

■県民にない視点
県民にない視点と鋭い筆致で沖縄社会を論評した、花田俊典「沖縄はゴジラか」(花書院)、琉球弧としての奄美の存在を強烈に描ききった「徳之島写真集・島史」(南方新社)、日高良廣・前原隆鋼「奄美のわらべ歌と遊び」(南方新社)の三冊も準県産本として記憶に残る本であった。

沖縄出版界の特徴ともいえる地域史では、住民の視点で編集した「宮城誌」(宮城自治会)、「古宇利誌」(古宇利誌編集期成会)、学校の創立記念誌として、糸満高校「世紀の潮よるところ」、那覇商業「那覇商百年史」の四冊は、今年を代表する特筆すべき書であった。

(琉球新報社提供)

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