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自分の生まれ育った地域に対する愛情と、自らの地域を深く掘り下げたいという熱意があふれている。
[ 宮城一春(編集者・ライター) / 2014.01 ]
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2013年7月発行
糸満市喜屋武自治会 編・刊
B5判/816ページ
3,000円(税抜)
喜屋武字誌
糸満市喜屋武自治会 編
毎年、数多くの字誌が刊行される県内出版界であるが、2013年度もさまざまな地域から字誌が刊行された。
地域住民が編集委員・執筆委員として編集される字誌は、素人ならではの紙面であったり、素人らしからぬ編集であったりと、形態は様々である。
しかし、その中には、自分の生まれ育った地域に対する愛情と、自らの地域を深く掘り下げたいという熱意があふれている。
今年度の字誌では、『喜屋武字誌』が印象に残った一冊であった。
字誌といえば、前述したように、アマチュアの人たちが編集や執筆に携わっている(この場合のアマチュアというのは、新聞に依頼原稿を書いたり、本を執筆したり、民俗や歴史を専門としていない方々のことです)ので、自分の地域のことだけでなく、沖縄全体の歴史を書いてしまったり、一般的な行事ごとを参考文献から引用してしまったりすることが見られる。
自分の字のことを記した本の内容を検証することなく、引き写している字誌もあったりする。
そのたどたどしさが、逆に魅力的だったりするのだが、字のことをもっと深く掘り下げて書いてほしいという隔靴掻痒な感じが付きまとったりする。また、自らの字を礼賛することに終始している字誌も見受けられる。
字単位という小さな地域とはいえ、字誌(史)を編集することは難しいのである。
前置きが長くなったが、本書『喜屋武字誌』は、そのようなことを踏まえて、きちんと喜屋武という字のことを記していこうという姿勢が終章まで貫かれている。
そのための手法が序章の「字誌を手になさるみなさんへ」である。その中で、編集方針や基礎知識として琉球全体の歴史解説をしている。
そのことによって、字誌が陥りやすい、沖縄全体の中に埋没してしまう字の歴史を防ぎ、喜屋武から沖縄全体を見るという意識づけに成功している。
本章からは、ムラの概観から喜屋武の歴史(行政含む)、産業、民俗、門中、信仰、教育、移民・出稼ぎ、戦争、人物、民話などが網羅されている。 喜屋武の歌謡や植物までも掲載されているのには、正直驚いた。
そのように丹念に取材し、丁寧に書かれた内容は、字の方々だけでなく、喜屋武出身者にも誇りが持て、なおかつ、喜屋武という集落の理解にもつながるよう編集されている。本当に市町村誌レベルである。
あとがきを読むと、歴史・文化・教育・民俗・考古の6名の専門の研究者の協力を依頼したとある。レベルが高いのも頷ける。
研究者と字民が協力して出来上がったのが、本書『喜屋武字誌』だといえるであろう。
ただ、研究者のレベルに合わせすぎたのか、字民の顔が見えづらくなっているように感ずる。アマチュアならではの一所懸命さが薄いように思われるのである。
これは、私が感じただけであって、そうではないとおっしゃる向きもあろうが、そう感じてしまうほど、充実した内容となっているのだ。
字誌は、簡単に取材・執筆して編集できるものではない。字の財産であり、子どもたちや、将来生まれてくるであろう未来の字民への尊い遺産ともいえる。
その意味で、本書『喜屋武字誌』は、現在住んでいる字民や喜屋武出身者の、自らを掘り起こした財産であり、未来の字民の貴重な書となることであろう。
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