本書を読んだ方なら、絶対に「市場の中の古本屋」の「ウララ」に行ってみたいと思うはずだ。
[ 宮城一春(編集者・ライター) / 2014.01 ]
2013年7月発行
宇田智子 著
ボーダーインク 刊
四六判/224ページ
1,600円(税抜)
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那覇の市場で古本屋
ひょっこり始めた〈ウララ〉の日々
宇田智子 著
面白い本が出た。
本を扱っている方の本だ。
本を生業としている方の書く本が面白くないわけがない。
標題ともなっている「古本屋 ウララ」から見る風景から、本書は始まる。
宇田劇場の始まりという感じ。
古本屋を始めるきっかけは何だったのだろう。さて、どのような本が登場してくるのだろう。ワクワクしながらページをめくる。
そこに現れてくるのが「人文とジンブン」。私たちウチナーンチュにとっては常識の言葉が、ヤマトの方に違う言葉となって認識されてしまうという面白い例だ。
う~ん、この文章からきたかぁ。うまい編集だなぁ。などと独り言ちながら読み進めていく。
この「人文とジンブン」には、著者の本への思いと、本を売る姿勢、著者の人生を方向付けることになった出来事や県産本との出会いが描かれている。 まさしく、「那覇の市場で古本屋」を開くことになるまでの序章であるような気がする。
本書を読むと、沖縄の常識は、ヤマトでは常識でさえないことがわかる(たとえば、カルタやポスターなど)。
土産品屋などで本が売られていることも当たり前ではないらしい。
よぉく考えてみたら当然なのかもしれないが、沖縄では以前からそうなのだから、当然のこととして思っていても仕方がないのだが……。
など、ヤマトから仕事で異動してきた著者と、私たちとのギャップが描かれている。これが淡々とした文章で、進んでいくのだ。読み進めながら、思わずフフフと、知らぬうちに笑いが出たりする。
本書後半は、「ウララ」開店前夜から開店、そして店番をする日常が描かれている。一所懸命に取り組み、悪戦苦闘しているはずなのだが、飄々とした文章からは、そのような姿は見えてこない。
逆に、徐々に沖縄に馴染み、沖縄色に染まっていく著者の姿が見えてくる。
縁(えにし)という言葉を思い浮かべた。
本書に貫かれているのは、著者と多くの本や人々との縁なのではないだろうか。
著者と知り合いになった多くのウチナーンチュたちが、思わず手を差し伸べてしまう。それが著者の魅力であり、人となりであるように思う。
本や人との縁を大事にしながら、本や人と真摯に向き合う。
本書を読んだ方なら、絶対に「市場の中の古本屋」の「ウララ」に行ってみたいと思うはずだ。
本の魅力や面白さが満載なのはもちろん、著者の宇田さんの魅力が満載なのも、本書の最大の特長なのかもしれない。
きょうも、ウララで、店番をしているだろう宇田さんに、会いに行きたくなること間違いない。
そして、宇田さんの顔を見たら、思わず、手に取った本を買わずにいられなくなるかもしれない。