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ものの価値とは、存在とは、一体何なのだろう。長く愛され必要とされるものとは何だろうか。

[ 和多秋朋(書評ライター養成講座 受講生) / 2014.02 ]

2000年10月発行
沖縄文化社 編・刊
B6判/98ページ
951円(税抜)
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沖縄の伝統工芸

沖縄文化社 編

自分の体験や、ドラマ、映画、または博物館へ行って、昔の様子と現在とを比較して考察することは誰しもあると思う。

時代の移り変わりは、人々の着物の変化、環境の変化から感じることができる。あんなものもあったのか、こんなものもあったなあ、と懐かしさで昔を思い出し、思い出と共にそのものが愛おしくなる。そして、これから新しく生まれてくるものに対して、希望に胸高鳴るものである。

しかし同時に、その高揚感とは反対に、むなしさも感じる。今、身近にあるものは、時間の流れの中で次第に変化し、時に無くなっていくものもあるのだ。

ものの価値とは、存在とは、一体何なのだろう。長く愛され必要とされるものとは何だろうか。

そんな折、伝統工芸品を、シンプルに紹介している本と出会った。B6版、98ページながらも、代表的な沖縄伝統工芸品が、分かりやすい言葉と流れのある文章で構成され、とても読みやすい。

図、表、地図、年表、写真を的確に配置し、モノクロの本だが(巻頭カラー写真4枚以外すべて白黒)、読み応えのある、満足できる本になっている。いや、モノクロだけに、読者の想像力を喚起する内容になっている。

名品の紹介ではなく、あくまでも工芸品の成り立ち、使われる技術に要点をおき、工芸品の原材料、産地、製品、技法、工程、特徴、歴史、補足情報をのべることで、工芸品が誕生するまでの軌跡を、この一冊で学ぶことが出来る。

“初心者に分かりやすく”をモットーとする沖縄文化社の発行であることからも分かるように、本の左端・右端にある複数の注釈を交え、初めて沖縄の伝統工芸品にふれる人にも優しく解説してある。

本の終わりには、沖縄伝統工芸紹介の仕方を、小中学生への教育指導フローとして示している。個人だけでなく、家庭、学校で教科書として使用できる一冊だ。

強いて言えば、本の最後に名品の紹介をカラー写真でまとめて提示して欲しかった。本の中で紹介してきた技術から、このような素晴らしい名品が出来ることを示し、興味をより引くこととなったと思う。だが、要点を成り立ちとその技術にしぼることで、小さい本ながらも他の伝統工芸本にない、さっぱりとした読み味を感じさせるため、伝統工芸品技術紹介本として満足できる。

私の中の伝統工芸品は、先人より現在の職人が技を引き継ぎ、長年守り続けている高貴な品物であり、耐久性があるにも関わらず繊細で、崇拝すべき存在である。

また、現在の私たちでは手に届かない値段で売買され、もはや売り買いの対象でない国宝級の品もあり、身近なものとはいいがたい存在だ。

しかし、現在の職人は、伝統を守りながらも、工夫を凝らして、低価格で日常使いできるような商品を、工芸品の展示会、沖展といった大きい展覧会、またインターネットなどで発表・配信している。

この春から新しい生活が始まる方々も、新しいことに胸高鳴らすだけでなく、長く愛される伝統工芸品の存在と価値から、古き良きものの理由とその大切さを学び、自分らしい新生活を考えてみてはどうだろうか。

ただ本著、2000年発行ということもあり、情報の古い箇所もある。新たなる情報を入れた改訂版を望むのは筆者だけではないだろう。

※この書評は、「平成25年度 書評ライター養成講座」の課題として受講生から提出された原稿を、講師の添削・指導のもと、加筆・修正して掲載したものです。
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