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ボリューム過多で満腹なのに、具材が豊かでどんどん読み進めてしまう魔法の本である。

[ 和多秋朋(書評ライター養成講座 受講生) / 2014.02 ]

2003年12月発行
沖縄ナンデモ調査隊 著
双葉社 刊
四六判/190ページ
1,500円(税抜)
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オキナワ・スローフードの秘密  笑う沖縄ごはん

沖縄ナンデモ調査隊 著

この本を読み終わった時、「チュファーラ!クワッチーサビタン(満腹です!ごちそうさまでした)」と胸の前で両の手の平を合わせた(「降参です、もう食べられません!」と腹をさすった、が正しいかもしれない)。

まず、表紙の時点で、すでに「クワッチーサビラ(いただきます)!」のゴングが鳴ってしまった。

おいしそうな食事が所狭しと机上に並んでいる写真が表紙である。そして、表紙のすぐ裏側、すなわち見返しには、沖縄風民家の中に、食事やお酒が置かれた長い机を真ん中にして、すでにほろ酔いかと思われる男女10名が、杯をあげカリー(乾杯)している。まるで、表紙の写真にあったご馳走を、今からこの人たちと食べて、盛り上がるような気持ちになる。

表紙と見返しの2ページで、お腹と心の準備は万端である。“食前にお読みください”という前書きにも、「もう頂いています!」とツッコミを入れてしまう。

この本文にいくまでの芸の細かさは、複数の著者が書いた文章にも見られ、読者を飽きさせない。話のテンポと面白さで、実際食事をしたわけではないのに、読みながら涎が垂れ、終わりには満腹になったほどだ。

一章一章ごとに著者が違い、それぞれの著者がもつ沖縄に対する気持ちが深い。琉球王国時代や戦前・戦後の歴史にからめて、沖縄食材を紹介するのはよくあるパターンだが、単にそうではない。

著者が感じた、沖縄食材と人類学、社会学、経済学、政治、また沖縄と日本、世界の歴史の関わりがチャンプルー(ごちゃまぜ)され、読者に分かりやすく皿に盛りつけ(整理)され、湯気を立てて美味しそうに出されるのである。ボリューム過多で満腹なのに、具材が豊かで、どんどん読み進めてしまう魔法の本である。

沖縄の食べ物の種類の豊富さ、そして、沖縄が外国と日本をつなぐ貿易地域であり、その環境が他にはない唯一の場所だからこそ、本の内容もバラエティーにとんでいることが分かる。そして、この影響は紹介する著者の目線の鋭さ、表現のユニークさにつながり、環境と食、そして人との相互作用が、沖縄県人でなくても理解しやすく、沖縄が身近に感じられる一冊となっている。

強いて言えば、食材一品一品のカラー写真が少ないことが残念に思う。
巻頭に、絵で各食材の関係図を分かりやすく描いているが、写真が足りないので、初めて沖縄食材に触れる沖縄初心者には分かりにくい点があるかもしれない。しかし、その写真を補う以上の情報があるのも確か。それは執筆者たちの、食材や沖縄に対する愛情である。

著者13人は、生まれ、仕事など、異なる背景をもつにも関わらず、沖縄という場所がかすがいの1つとなり、この本を作るに至った。

三線の音色と海の色に誘われ公務員を辞職し沖縄移住した著者の1人は、自宅近くにあるスーパーでたまたま見かけた沖縄のおやつに開眼し、おやつを通して沖縄に対する深い愛を切々と述べている。

このように、沖縄を知るきっかけは、ある視点(あるいは始点)だったはずが、今や多面的な沖縄を発見した著者たちが、誰にでも平等に開かれている沖縄(言い換えれば、常時メンソーリヨー〔いらっしゃい〕姿勢の沖縄)を、この本でたっぷり紹介している。

愛を持った沖縄のアンマー(お母さん)的包容力で、沖縄の深みと広がりある味を、楽しく味わってカメー(たくさん食べなさい)とさとす本だ。

この本を読むことで、沖縄県人がふるさとに対して面白さと自信を感じ、自分らしい沖縄を世界中に発信して欲しいし、沖縄に魅せられた他府県の人たちが、沖縄をより深く知る標となって欲しいものだ。

そして、本書を足がかりとして、沖縄に対するイメージをふくらませ、沖縄探究心を目覚めさせるきっかけの本になると期待してやまない。

※この書評は、「平成25年度 書評ライター養成講座」の課題として受講生から提出された原稿を、講師の添削・指導のもと、加筆・修正して掲載したものです。
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