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かつて、沖縄の人々を熱狂の渦に巻き込んだこともあるのが琉球競馬なのである。

[ 宮城一春(編集者・ライター) / 2014.02 ]

2012年11月発行
梅﨑晴光 著
ボーダーインク 刊
四六判/344ページ
1,800円(税抜)
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消えた琉球競馬
―幻の名馬「ヒコーキ」を追いかけて

梅﨑晴光 著

シンザン、ハイセイコー、オグリキャップ、ディープインパクト、これまで数多くの名馬が、競馬場の馬場を駆け抜けていった。

沖縄に住んでいると、競馬のことは全くといっていいほど情報が入ってこないし、馬券を買う経験をした人も少ない。
ウチナーンチュにとって競馬に触れるとは、中央競馬会(JRA)が主催する受賞レースをテレビで見るくらいなのではないだろうか。

今では、それほど、沖縄人の日常とはかけ離れたものとなっている。もちろん、沖縄に住んでいても競馬中継を見る人はいるだろうし、馬券を購入している人はいるかもしれないが、それは一部の人に限られているだろう。

しかし、かつて、沖縄の人々を熱狂の渦に巻き込んだこともあるのが琉球競馬なのである。
それは、県内各地に残されている馬場が150を超えることからも推察される。

それこそ、沖縄島から宮古・八重山まで、いたるところにあるといっても過言ではないほど。しかし、馬場といっても、どのような馬がいたのか、実際に馬が走っていたのか、皆目見当がつかない人が多いだろう。

私は、編集者として字誌の編集に携わることがあり、古老に編集作業やインタビューを通して接することが多い。

その中で、たまに語られるのが「ンマハラセー」。直訳すると「馬走らせ」だが、私の中では、それが競馬と直結して理解することはなかった。
前述したように、テレビで見る競馬に囚われすぎていたからであろう。楽しそうに、往時のンマハラセーのことを語る古老の話を聞きながら、どうしても頭の中で映像が思い浮かばず、文字起こしに苦慮したことがあった。

馬場跡や馬のことは調べて念頭にあったにも関わらずである。
思い込みは哀しい。

そんな私の思い込みを払拭してくれたのが本書。

本書は、沖縄で実際に行われていた琉球競馬の実態や、名馬と称された「ヒコーキ」を追いながら、沖縄そのものを描き出している。まさしく、著者の執念ともいえる思いの詰まった、一級のノンフィクションとなっている。沖縄の出版界では、あまりみることのないジャンルだけに、素直に本書の登場を喜びたい。

また、本書の刊行がきっかけとなって、県内で「ンマハラセー」が復活したこと。競馬場で行われる競馬とは一線を画す、沖縄本来の「競馬・ンマハラセー」を、より身近で見ることができることを期待している。

私は本書を読んでから、宮古のサニツで行われる浜競馬を思い出し、「そうか、あれも琉球競馬の一つなんだよな」と思ったり、馬場跡を通るときに、いにしえの琉球競馬の喧騒と熱狂ぶりを想像したりすることが、できるようになった。

戦前の競馬に対する人々の思いが、まっすぐに伝わってくる書であり、消えた琉球競馬を、現代の沖縄によみがえらせたという点でも、沖縄本を代表する新たな書が誕生したといえるのではないだろうか。

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