「祈り」の光と影が織りなす人々の営みの瞬間が、まさに作者によって切り取られている。
[ 小出由美(「書評ライター養成講座」受講) / 2014.09 ]
2013年10月発行
大森一也 著
南山舎刊 刊
装丁:山盛誠
B5判/264ページ
2,900円(税抜)
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来夏世 ―祈りの島々 八重山―
写真・文:大森一也
なんて神々しいのだろう。まるで、この世とは思えない。もし神の世界があるのなら、このような世界なのではないだろうか。
本書は、見る者をしてそう思わせるような、神秘的な写真集だ。
『来夏世―祈りの島々 八重山―』。あとがきによると、来夏世とは、「『来る夏の世』の意味で、年の前半にあってはその年の実りの季節をいう場合もあるだろうし、それ以外では通常、来年の夏のこと」なのだという。その上で、祈りが主題であることを副題でも現わしている。
本書は八重山の御嶽での神事や祈願を中心に、芸能や年中行事が158点のモノクロ写真で展開されている。白い衣装を着て、海に向かって祈りをささげる女たち。ハーリー船の砕け散る波しぶき。踊りを見つめる少女の澄んだ瞳。本番前に化粧を施してもらっている緊張した瞬間。暴れる獅子舞。一心不乱になって踊る男女の陶酔。地上に落ちてこんばかりの星空。
「祈り」の光と影が織りなす人々の営みの瞬間が、まさに作者によって切り取られている。
本書は、モノクロ写真制作の際の暗室技法が効果的に使われている。写真の一部を明るくする覆い焼きや、暗くする焼き込みなどの技法である。それで一点一点の写真の見せたいところに読者の目がいくように、かつドラマチックなイメージに仕上げている。
また、一枚目の写真と、一番最後の写真は、いずれも同じ場所の同じ香炉を、構図を変えて撮影している。この写真集のストーリーの円環性を著者が意図しているのを、私は感じた。
巻末には、波照間永吉氏による「世ば稔れ」考と、作者による撮影メモが付いている。撮影メモは、一点一点の写真について、2~3行の解説と、撮影場所と撮影年月日が付してある。八重山の祭祀行事について知らない読者にとっては親切だ。
スピリチュアルな世界に思う存分浸ることができ、かつ伝統文化の継承についても考えさせてくれる、身が引き締まるような一冊である。
どの地域でも問題になっているように、後継者不足などで、八重山で行われているこのような祭祀行事も、いずれは消滅してしまうのであろうか。そうであるなら、いや、そうであるならこそ、この写真集の発行は記録性の上でもたいへん価値がある。著者はたいへん貴重な仕事を成し遂げている。このことの功績は、はかりしれない。