沖縄の方言や音楽などはかろうじて生き残ったが、針突という文化はぷっつりとその姿を消してしまった。
[ 照屋ウト(「書評ライター養成講座」受講生) / 2014.10 ]
2012年05月発行
写真・山城博明/解説・波平勇夫
新星出版 刊
A5判/112ページ
1,200円(税抜)
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琉球の記憶―針突(はじち)
写真・山城博明/解説・波平勇夫
むかしむかし、沖縄の女は一人前になった証しとして、または信仰のお守りとして、または己のアイデンティティーを示すものとして、刺青で自分の両手にさまざまな模様を刻んだ。
『琉球の記憶―針突』は、その針突という、今は滅びてしまった沖縄の文化を貴重な写真で記録した一冊である。
この本はもちろんタイトルにあるとおり針突がメインなのだが、何よりも被写体になっている沖縄のおばぁ達の姿がとにかく素晴らしい。
杖をつき笑顔でかわいい孫に手をのばすおばぁ。
畳の上で何とも言えない表情でお茶を飲むおばぁ。
カジマヤーのお祝いなのか、黄色い美しい着物を着ているおばぁ。
病院のベッドの上で、もしくは車いすに座って無防備に写真におさまるおばぁ。
ブーゲンビリアの咲く石垣に囲まれた赤瓦の家の玄関で談笑するおばぁ達。
仏壇の前で作り笑顔さえ見せずに毅然とした態度でまっすぐに座るおばぁ。
今や全国的に有名になった「いつも笑顔で優しい沖縄のおばぁ」のイメージとはひと味もふた味も違う、本物のおばぁたちが満載なのだ。
そのおばぁ達の湯のみを持つ手、ただ膝におかれた手、風車を持つ手、重い荷物を持つ手、耕す手、紡ぐ手、売る手、買う手、休む手、タバコを吸う手、踊る手、祈る手、さようならと振る手、いらっしゃいと招く手。
その指は長い年月を必死に生き抜いてきた証しとしてずんぐりと丸く短くシワだらけで、その肌は100年近く沖縄の厳しい日差しに焼かれてまっ黒だったり、長期の入院生活のために真っ白だったりとさまざまだ。
どれもこれも本当に美しい。
そして、時おり写っている沖縄の古い風景をながめてなつかしい気持ちになったり、おばぁ達が着ている着物の柄を見てそのおしゃれを感じるのも楽しみの一つである。
針突という文化を通してこのような美しい古き良き沖縄の写真を撮り続けてくれた著者の持つ優しいまなざしがただただ嬉しい。
沖縄女性の誇りであったはずの針突だが、巻末の解説にあるように時代の流れの中でいつの間にか差別の対象となってしまう。
大きな流れの中で沖縄の方言や音楽などはかろうじて生き残ったが、針突という文化はぷっつりとその姿を消してしまった。
針突は沖縄女性の誇りの象徴なのだろう、と私は思う。
しかし、針突が無くなってしまっても沖縄女性の美しさ、優しさ、強さが無くなったわけではないだろう。
とは思うのだが、本書のおばぁ達を見ていると、どうしても今はもう無くしてしまったもの、過去に置き去りにしてきてしまった何か大事なものがあったような気がしてならないのだ。
それはいったい何なのだろうか。
あと数十年後、私もおばぁと同じ美しい手になれますでしょうか?
私はただ、たずねるように何度も何度もページをめくるだけである。