今では考えられないくらい斬新かつレトロなデザインだろう。まさしく未知の世界を知る入り口となる本だ。
[ 上原英樹(「書評ライター養成講座」受講生) / 2015.02 ]
2014年05月発行
渡邉保人 編
ALITALIA 刊
A4判/ 134ページ
8,500円(税抜)
琉球民営煙草デザイン
渡邉保人 著
日本本土では専売公社1社がタバコを製造販売していたが、復帰前の沖縄にタバコ会社は4社あった。
日本復帰前、琉球政府時代の沖縄には魅力あるモノが多数あふれていると思う。
そのひとつに、タバコのパッケージがあることを本書が教えてくれる。
私はタバコを吸わないが、本書のタイトル「琉球民営煙草デザイン」と、表紙にある4つのタバコ会社の名前に興味を惹かれ手に取った。
タバコをたしなまないうえに、復帰後世代の私にとって「復帰前には4社も煙草会社があったのか!」という驚きは、本書に掲載されたパッケージの種類の多さへの驚きへとつながっていった。
現在だとコンビニでレジの奥に多くの種類のタバコが並んでいるが、JT(日本たばこ産業)のサイトではJTのタバコ銘柄としては8種類だ。各銘柄ごとに商品のバラエティがあり種類が多いのだ。たとえば、セブンスターであれば、セブンスター・ボックスなど計14種類の商品がある。(セブンスターファミリー)
それに比べて、復帰前の沖縄では4社とはいえ小規模のタバコ会社が約60種もの銘柄を送り出していたのだ。
種類の多様さは必然的にパッケージが多様であることにもなるが、それ以上にデザイン変更や限定タバコも多かった。今では考えられないくらい斬新かつレトロなデザインだろう。まさしく未知の世界を知る入り口となる本だ。
本書はそれらタバコのパッケージに魅了された著者の渡邉保人氏が、長年かけて収集したコレクションと沖縄在住のコレクターのコレクションにそれぞれ説明文を付し、かつ、納税の証紙の種類別、デザイン変更別など細やかな変化も掲載した労作だ。
面白いのは企業の記念タバコ(琉球放送や沖縄食糧)、広告タバコ(中央時計店や自動車販売など)で、とりわけ標語周知用の「青少年育成県民会議結成記念」タバコにはシニカルさを感じる。これはぜひ見てもらいたい。
琉球煙草株式会社、琉球香港煙草株式会社、オリエンタル煙草株式会社、沖縄煙草産業株式会社の4社が存在し、狭い市場の沖縄で販売競争を繰り広げ、しかも対象は県民だけでなく、米軍基地内向け、日本本土向け(輸出)を生産していた。その競合たるや凄まじいものがあったと思うばかりだ。そしてタバコパッケージは非常に多様なものとなっていった。
本書の面白さは、それら多種類でカラフルなパッケージの数々と、間違い探しにも似たパッケージの変更をも見逃さない著者の観察眼にある。
復帰直前には3社となっていた沖縄のタバコ会社は復帰と同時にたばこ専売法の適用によって廃止となり、日本専売公社にタバコ事業は引き継がれた。
「三社の製造していた銘柄はその姿を消し、日本専売公社の銘柄に一掃され」(本文)、沖縄独自のタバコ銘柄は「ウルマ」、「バイオレット」、「ハイトーン」、「ロン」の4種類のみが生産され、復帰前の沖縄の社会の名残りとなる。
本書は、沖縄の民営タバコパッケージのコレクション本というだけでなく、米軍統治下の沖縄県民の風俗、経済活動の一端を知ることができる魅力的な一冊だ。