年末回顧 1995(県内・出版)

琉球新報 1995年12月29日 朝刊 文化面 掲載
宮城一春(「沖縄県産本ネットワーク」事務局)

内容充実の戦争関連本
沖縄市平和振興課「インヌミー」好古の資料

今年の出版物は二百五十八点が沖縄タイムス社の出版文化賞の選考過程において計上されている。 そして本年、沖縄の出版界において最大の主題といえば、他の分野も避けて通れないであろう「戦後五十年」であり「沖縄戦終結五十年」企画が挙げられる。特に「慰霊の日」前後は、新刊だけではなく既刊の戦争関連書の売れ行きが好調だったのも今年の特徴といえるだろう。 なかでも『沖縄戦ある母の記録』(安里要江・大城将保共著)、『ひめゆりの少女』(宮城喜久子)、『「集団自決」を心に刻んで』(金城重明)、『沖縄と自衛隊』(石川真生)、以上四冊の沖縄戦や戦後沖縄にこだわり続ける著者の思い出を出版した高文研は、体験し、苦悩し、そして現実をしっかりと見つめて生きるということがいかに大事かを実感させてくれた。また、漫画という独特な世界で沖縄や沖縄戦にこだわり続けている新里堅進の『水筒 上下』や『沖縄決戦』が、同じくヒロシマ・ナガサキの原爆体験にこだわり続けているゲン・クリエイティブで新たに発刊されているのもうれしいニュースである。

県内の版元に目を向けると山城髙常は『戦場のトンボ』(ニライ社)で少年の目から見た沖縄戦を描き、「おきなわ文庫」の『発言・沖縄の戦後五十年』で高良勉は、戦後感を座談会や筆者個人の年表などで表している。

琉球新報社は『証言 沖縄戦―戦禍を掘る』『沖縄 学童たちの疎開』(琉球新報社編)で、戦争そのものの悲惨さと、学童疎開から見た戦争の一側面を追った新聞連載を証言集という形でまとめた。上原正稔は『沖縄戦トップシークレット』(沖縄タイムス社)で、知られざる沖縄戦を描き出し、嘉陽安男は小説というジャンルでハワイに送られる日本兵捕虜を『捕虜たちの島』(沖縄タイムス社)で表現している。

他に証言集では沖縄市企画部平和振興課の『インヌミから五〇年目の証言』は戦後の沖縄住民の生活を証言集ならではの視点で収録している好著。『つるちゃん』も自費出版ながらマスコミで取り上げられ、話題をよんだ絵本として記憶にのこる。

大型企画本としては、奇しくも戦前・戦後・現在を取り上げた写真集が三冊発行された。『よみがえる戦前の沖縄』(沖縄出版)は戦前の沖縄を現在と比較して郷愁あふれる写真を配置し、『沖縄 戦後五〇年の歩み』(沖縄県)は、戦後の復興の姿をさまざまな視点から描き出し、『平和の礎』(那覇出版社)は沖縄戦犠牲者の名前を記した礎を淡々と紙面化している。

戦後五十年企画以外の本も多く出版された。ひるぎ社の「沖縄文庫」は謝花勝一『ウシ国沖縄・闘牛物語』で、根強いファンをもつ闘牛の新しい魅力を引き出し、石原昌家『戦後おきなわの社会史』で戦後社会に焦点をあてた。現在七十四冊を数えるが、どこまで、どのような主題で続いていくか楽しみなシリーズである。

ひるぎ社は他にゆたかはじめの『奥の細道 海の広道』で、東京出身の著者が見た沖縄を楽しい発想で表した。同じく岡正弘の『シマ・ナイチャーの見聞録』(ボーダーインク)も単身赴任の著者が、ナイチャーの目で見た沖縄を書きつづっている。

すばドゥシの会編「私の好きなすばやー物語」(ボーダーインク)と週刊レキオ社編『ぐるぐるグルメの本』は、単なる料理店ガイドブックではなく、編者が実際に愛情をもって食べた料理を愛情を持って書いた本。今年のベストセラーといえる二冊である。

料理関係の本では伊芸秀信・伊芸敬子『おきなわの山野草料理と暮らし』(沖縄出版)が、これまでのような琉球料理という枠から抜け出て、レイアウト・写真ともに出色の出来である。『珊瑚の島の家庭料理』(石垣愛子)は、八重山で民宿を経営する著者が島の素材にこだわった料理をまとめた一冊。

音楽のジャンルでも仲宗根幸一『「しまうた」流れ』(ボーダーインク)は、しまんちゅの暮らしの中に息づいているしまうたを奄美から本島、宮古、八重山まで含めて解説した書。上原直彦『島うたの小ぶしの中で』(丹躑躅山房)は、著者の島うたと唄い手について思いが込められていて、何より編集者が楽しんで編集しているのがわかる本である。他に県外版元から『沖縄うたの旅』『なんくるぐらし』がある。

他には、『沖縄の艶笑譚』『琉球地震列島』『揺れるデイパック』(琉球新報社編)、『がんを越えて』(志良堂仁)、『美しい琉球語』(仲宗根政善)、『沖縄古語大辞典』(古語大辞典編集委員会)、『世・世・世』(筑紫哲也)が印象に残った。また、『沖縄の野鳥』パグハウスのCD-ROM刊行も今年の特筆すべき事項であろう。

雑誌では『けーし風』(新沖縄フォーラム刊行会議)、『ワンダー』(まぶい組編)、『島唄楽園』(パワーハウス)、今年創刊の『シルバーエイジ』(二〇二〇年)が発行されている。

(琉球新報社提供)

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