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年末回顧 1998(県内・出版)
琉球新報 1998年12月29日 朝刊 文化面 掲載
宮城一春(県産本ネットワーク事務局)
内外から沖縄描く視線 不況で停滞感続く
今年の県内出版物は、三百五十九点が沖縄タイムス社の出版文化賞において計上されている。今年の出版物は、昨年より八十点ほど多く発刊されているにもかかわらず、昨年同様停滞感のある年であったように思う。知事選における争点が基地問題よりも経済問題であったように、県内版元も不況の影響をモロに浴びてしまったのだろうか。基地問題や戦争関連には強い県内版元だが、経済書などには弱いところを露呈してしまったともいえるだろうか。
ただし、沖縄の特性を代表するともいうべき民俗信仰のことばを千二百語以上も収録した高橋恵子「沖縄の御願ことば辞典」や、精神世界の癒しを家相とともに、体験談を通して解説した長嶺伊佐雄・長嶺哲成「カミングヮ」などを代表とするボーダーインクは健在ぶりを今年も発揮し、民話の世界を新しい視点でとらえ、紙芝居的な絵本に仕上げた沖縄テレビ放送「新・おきなわ昔ばなしⅡ」(沖縄出版)、多くの門中をその始祖から展開し、それぞれに丁寧な解説をつけた宮里朝光監修・田名真之解説「門中大辞典」(那覇出版)という大型本を発刊した老舗版元に来年への隆盛を期待したい。
そして、今年目についたのが、沖縄の料理について、食材を著者独特の視点で辛口に描いた、尾竹俊亮「シマのごちそう南遊記」(ボーダーインク)、沖縄の味覚、住まい方、音楽、摩訶不思議な部分を、ヤマトゥンチューの視点で表現した、下川裕治責任編集「好きになっちゃった沖縄」(双葉社)。描き方が反対ゆえに、沖縄を好きでたまらぬ外の視点が新鮮で面白く、かつわれわれウチナーンチュに警鐘を鳴らしているように思えた。昨年は、移住者本の目立つ年であったが、今年は外に立脚点を置きながら、沖縄への思いを描いたという点で、昨年とは一味違う沖縄を垣間見せられたような気がした。これからも、もっといろいろな沖縄を、さまざまな人たちが見つめ発刊してもらいたいと思う。
また、逆の意味で印象に残ったのが、山城紀子「心病んでも」(ニライ社)。精神障害という、一種特別視され、偏見視される病を、当事者の生の声や著者の取材を通して描き出している。われわれの無理解ぶりを知らしめ、どうすればよいかを教えてくれる。大濱聡「沖縄・国際通り物語」(ゆい出版)も著者の執念を感じさせてくれる本であった。那覇だけではない沖縄を代表する顔ともいえる国際通りの敗戦まもないころから現在までをたんねんに取材した本書は、「心病んでも」とともに、マスコミに従事する著者の姿勢が本となったような気がする。
沖縄を語る本として挙げられるのが、「沖縄コンパクト事典」(琉球新報社)。歴史・文化・自然などを三千四百項目余にわたって解説している。掲載の写真には難があるが、広く沖縄を知るためには手軽で最適な本といえよう。また、ディープな沖縄を知るうえで強烈なインパクトを感じたのが、沖縄市企画部平和文化振興課「エイサー三六〇度」。現在では旧盆以外にも披露されることが多くなったエイサーを、本場ともいうべき沖縄市が、その歴史から各地のエイサーの比較分析、エッセーなどで綴っている。本島のみならず、宮古・八重山・県人会・海外・創作エイサーまで網羅しているので、エイサー大好き人間にとってはこたえられない本といえるだろう。
自然関係では、知念盛俊「身近な生き物たち」(沖縄時事出版)が印象に残った。写真を駆使したビジュアルな本が目立つ中、著者による詳細なイラストが臨場感を与え、わが子に語る博物記とサブタイトルに銘打っているように、沖縄の生物たちを優しく、わかりやすく表現している。
沖縄戦関係では、船越義彰「狂った季節」(ニライ社)の印象が強い。単なる証言集ではなく、現在作家として活躍する著者独自の視点で沖縄戦と敗戦後の復興ぶりが描かれている、新たな戦争関連書であった。
ほかには、沖縄出身移住者たちの苦労と歴史を描写した、具志堅興貞著・照井裕編「ボリビアの大地とともに」(沖縄タイムス社)。今年の社会情勢を代表するデイ・ケアを描いた「検証老人デイケア」(琉球新報社)が秀逸であった。
そして、四十五回産経児童出版文化賞を受賞した、深石隆司「沖縄のホタル」(沖縄出版)も今年の特筆すべきことであったと思う。
(琉球新報社提供)