年末回顧 2005(県内・出版)

琉球新報 2005年12月27日 朝刊 文化面 掲載
宮城一春(文進印刷編集者)

健闘した県産、沖縄本 質量ともに傑作ぞろい

今年の出版物は四百四十九点が沖縄タイムス社の出版文化賞において計上されている。今年は県産本のみならず、沖縄本の健闘も印象的な一年であった。というより、質量共に近年まれにみる傑作ぞろいであり、県産本の新たな面を見ることのできた貴重な一年であった。正真正銘傑作ぞろいの年であったといえよう。

今年最初に驚かされ、内容の面白さに、う~んと唸ってしまったのは崎原恒新「琉球の死後の世界」(むぎ社)。これまでにない切り口で、沖縄びとの信じてきた死後の世界を、さまざまな事例を通して教えてくれた。単なる幽霊話や怪奇譚とは異なり、ありそうでなかったジャンルの本で、県産本の題材の奥深さをも知らせてくれた好著であった。また、考古学の仮設を大胆に駆使し、私たち素人を先史学の世界にわかりやすく誘ってくれた高宮広土「島の先史学」(ボーダーインク)も、研究者の懐の深さと、様々な事例を基に説を立てることの重要性を教えてくれた。これからも研究を進めた第二弾を読みたいと思ったのは私だけではあるまい。

■ボーダーインクがけん引
そして、今年も県産本をリードしたといってよいボーダーインクの活動も特筆すべきであろう。加藤彰彦「沖縄福祉の旅」から「ワンダー三十七号」まで二十五冊を上梓しており、そのパワフルな活動は健在であった。中でも、宮里千里「沖縄あーあー・んーんー事典」は、新城和博との名コンビから生まれた書で、何気なく見逃している事象を面白く展開している。意表をつく表題の面白さと、内容が見事に合致している。『沖縄の土木遺産』編集委員会「沖縄の土木遺産」も印象に残った。先人の残してくれた土木遺産の特長が専門家によって分かりやすく解説されており、この本を持って土木遺産廻りをしてみたいと思わせる内容。他にボーダーインクでは、比嘉淳子「琉球ガーデンブック」が、沖縄の植物を著者独特のセンスで分類・解説し、太田良博「戦争への反省」は、「鉄の暴風」の執筆者であった著者の平和への思いが綴られている。他にも、南島地名研究センター「南島の地名第六集」も、地名研究に功績を残す仲松弥秀氏の業績が一目でわかる編集内容となっている。

■沖縄戦書籍に新たな一面
今年は戦後六十年。それに相応しい沖縄戦関連書でいえば、琉球新報社「沖縄戦新聞」(琉球新報社)も、今年の発刊物の中では群を抜いた内容であった。リアルタイムの新聞という体裁を取りながら、現在の沖縄戦研究成果をまとめた本書は、今年を代表するベストセラーとなった。さすが新聞社の編集した書といえる。三木健「戦場のベビー」(ニライ社)も児童書として描かれた書で、二人の戦争体験者を単なる証言集、体験集とは別の観点で表現された好著であった。

謝花直美「戦場の童」(沖縄タイムス社)は、綿密な調査をもとに書かれたルポ。新聞記者らしい視点で戦争の矛盾を追及している。沖縄歴史研究会・新城俊昭「沖縄戦から何を学ぶか」(沖縄時事出版)は、学校現場で沖縄戦を教材化している著者たちが編集した本で、沖縄戦を学ぶに最適な書。これらの本たちによって、沖縄戦関連書に新たな一面が切り開かれたという感がしたのは私だけではないだろう。

■組踊を漫画で紹介
また、組踊が好きな私にとって、忘れられない一冊となったのが、大城立裕監修・漢那瑠美子漫画「組踊がわかる本」(沖縄文化社)。組踊を漫画で展開し、キャラクターが紙面上で自由に動き回っていた。初心者でも組踊に魅了される内容で、他の名作組踊をさらに漫画で読みたいと思わせる内容であった。シドニー・ブレナー自伝「エレガンスに魅せられて」(琉球新報社)は、研究一筋に打ち込んできたブレナー氏の学問に対する姿勢が印象に残る一冊。

研究者でいえば、野原三義「うちなあぐちへの招待」(沖縄タイムス社)も、野原氏の長年の研究成果と、うちなあぐちの知らなかった部分がわかりやすく文章化されている。新城将孝他「法学 沖縄法律事情」(琉球新報社)も、憲法や法律という素人からは敬遠されがちな分野を身近な新聞記事等を使って展開している。これら研究者が描く専門的な分野の本も印象的な一年であった。

■昆虫の本に好著
他にも、世の保護者の方々にぜひ読んで欲しいのが下地幸夫「沖縄のクワガタムシ」(新星出版)と屋比久壮実「野草の本」(アクアコーラル企画)の二冊。フィールドワークに最適で、沖縄の自然の豊かさと大切さを子どもと一緒に味わって欲しいと思わせる書である。福田晴夫他「昆虫の図鑑」(南方新社)も、奄美・沖縄に生まれて良かったと思うほどの昆虫たちを味わわせてくれる好著。山城賢孝「口ずさんで楽しむ万葉百人一首」(ニライ社)も、飛鳥や奈良の里をこの本を持って散策したいと思う本であった。石垣愛子「食材南海」も印象に残った。

最後になるが、兼城一「鉄血勤皇隊の記録」(高文研)、奥野修司「ナツコ沖縄密貿易の女王」(文藝春秋)も今年を代表する内容の濃い素晴らしい本であった。

(琉球新報社提供)

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