年末回顧 2010(県内・出版)

琉球新報 2010年12月30日 朝刊 文化面 掲載
宮城一春(フォレスト編集長)

分野幅広く内容深化 興南、総体写真集 話題に

今年、刊行された沖縄本は約三百点。昨年とほぼ同じ数が出版されている。しかし、不作だった昨年とは違い、今年は極めて内容が濃い上に、幅広い分野の書が発刊された特筆すべき年だったようにも思う。

まず、琉球新報社「興南春夏連覇」「興南全国初制覇」(琉球新報社)、沖縄タイムス社「春夏連覇 興南偉業の足跡」「興南 熱闘の足跡」(沖縄タイムス社)の四冊。異常とも思える県民の熱気の中、見事に甲子園の春夏連覇の偉業を成し遂げた興南高校の優勝グラフ。優勝して一週間前後の発刊という両新聞社の力業もあり、書店での売上げも良かったと聞く。全国でも類を見ない、まさしく今年を代表する県産本といえよう。また、「若い力輝きの夏2010」(琉球新報社)と「君が輝いた夏」(沖縄タイムス社)も、真夏の沖縄を舞台にインタハイで躍動した全国の高校生たちを中心に、文化系の高校生たちも取り上げた写真集。忘れてはならない今年の書である。

ものすごい書籍が刊行された。琉球・沖縄芸能史年表作成研究会編「琉球・沖縄芸能史年表 古琉球~近代編」(財団法人国立劇場おきなわ運営財団)である。サブタイトルにある通り、古琉球の時代から沖縄戦が始まる直前までの芸能関連記事が掲載された内容は、舞踊や組踊にとどまらず、明治に入ってからの村芝居や闘牛・綱引き・映画等々が網羅されている。「組踊」がユネスコの世界文化遺産に登録された記念すべき年に、後世に残る大作・労作と呼ぶに相応しい書が生まれた。

また今年の特徴に、これまでにない主題で構成された料理本が挙げられる。益山明「尚王朝の興亡と琉球菓子」(琉球新報社)は、琉球王朝から伝わる菓子を現在の視点で検証し、外間守善「沖縄の食文化」(新星出版)は、食物の歴史を自身の体験と共に綴り、今村規子「名越左源太の見た幕末奄美の食と菓子」(南方新社)は、『南島雑話』で知られる名越左源太の人となりを、日々記した日記に描かれた料理を通して見つめている好著。知名茂子「松山御殿の日々」(ボーダーインク)、は、食通としても名高い尚順家に育った食卓を著者の回想から辿り、帆足邦子「帆足邸の晩餐会」(ボーダーインク)は、ホームパーティの料理をわかりやすいレシピと写真によって紹介している。

ラジオから生まれた本も印象に残った。ラジオ沖縄「ティーチャ本」(フォレスト)は、昼の人気番組に送られたメールをもとに構成され、リスナーの日々の思いとウチナーンチュ気質を教えてくれたし、ラジオ沖縄「ラ・ラ・ラ、ラジオ沖縄」上原直彦「琉歌百景」(ともにボーダーインク)は、会社の歴史を番組とともに追い、後者は長寿番組として全国的にも有名な番組のコーナーで紹介する琉歌をわかりやすく解説している。写真集も好著が相次いで出版された。比嘉康雄「母たちの神」(出版舎mugen)は、琉球弧の祭祀を撮り続けた著者の静謐な中にも迸る感情の写真を掲載し、嘉納辰彦「もうひとつのウチナー」(ボーダーインク)は、南米のウチナーンチュの苦難と成功、そして故郷への想いを肖像写真で表現した。森口豁「米軍政下の沖縄 アメリカ世の記憶」(高文研)は、復帰前の沖縄の状況を庶民の写真を通して訴え、下野敏見「トカラ列島」(南方新社)では、膨大な写真を民俗学的な手法でトカラの人々の日常を見事なまでに切り取っている。

他に後田多敦「琉球救国運動」(出版舎mugen)では歴史的にあまり知られていない脱清人のことを詳細な調査と洞察力で描き、親盛長明「ある医介輔の記録」(南山舎)でも、歴史の渦の中に埋もれがちな医介輔という職業に就いていた著者の思いを柔らかい筆致で伝えている。この二冊からは、知られざる歴史を発掘して書き記していくことの大事さを教えてくれた。また、平山鉄太郎「沖縄本礼賛」(ボーダーインク)は、深淵な沖縄本の世界を収集家である著者の奮闘ぶりを通して知らしめる本好きには堪らない一冊であった。低迷する月刊誌の中で、今年新たに「momoto」が創刊された。斬新な紙面と深く掘り下げる内容にエールを送りたい。

紙面も尽きてきたので印象に残った本を書き記そう。小波津正光「まーちゃんのお笑いニュース道場」、山里勝己「琉大物語」(琉球新報社)、徳元英隆「おきなわの怪談」(沖縄文化社)、新城俊昭「沖縄から見える歴史風景」(東洋企画)、玉城愛「ああ、沖縄の結婚式!」(ボーダーインク)、松田良孝「台湾疎開」、三木健「アメリカエスニック紀行」(ニライ社)、吉浜忍他「沖縄陸軍病院南風原壕」(高文研)遠藤庄治「沖縄の民話研究」(沖縄伝承話資料センター)などであった。

そして最後に朗報。昨年、この欄で指摘した新報の日曜読書欄が毎週見開き二面へと復活した。嬉しい限りであるが、二度と一ページになることがないようにして戴きたいと切に願う。

(琉球新報社提供)

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