年末回顧 2001(県内・出版)

琉球新報 2001年12月27日 朝刊 文化面 掲載
宮城一春(県産本ネットワーク事務局)

芸能関係に深さ 目立ったウチナーグチ本

今年の出版物は、四百八十九点が沖縄タイムスの出版文化賞において計上されている。質量ともに優れていた昨年より八十九点多いが、その内容はといえば、量の多さに比べ、少し物足りなかった年であったように思う。

そのような中、今年私が一番面白く、おススメ本として紹介したのが、糸数貴子「糸数家の人々」(ボーダーインク)。極私的ともいえるほどの家族エッセイなのだが、極私的なゆえに沖縄の普遍的な家族像が浮かび上がってくる本で、何より文章が良い。どっぷりと沖縄の家族に漬かってしまうような内容で、新たな書き手の登場にワクワクしてしまったほど。次に、下川裕治「沖縄にとろける」(双葉社)。沖縄という地に限りない愛情を持った著者のほのぼのとした、落ち着いた文章で描き出される世界は、読み手側をもとろけさせてくれる。また、山里将人「アンヤタサ」(ニライ社)も、読者を自分の趣味の分野へ引きずりこんでしまうほどの内容を持った好著。映画を通して、世相までを描き出して、思わず続編を読みたいと思わせるような本であった。

勝連繁雄「琉球舞踊の世界」(ゆい出版)も、単なる芸能論にとどまらず、著者独自の視点での鑑賞法や琉球芸能界への提言など、実演家ならではの琉球舞踊の世界を見せてくれた。他に芸能関係で印象に残ったのが、矢野輝雄「組踊への招待」(琉球新報社)。難しく思われがちな組踊であるが、本書を読むと内容もさることながら、歴史や技法、能との比較などで組踊の奥深さを知らされる内容となっている。組踊劇場が建設される現在、さまざまな人に読まれるべき本といえるだろう。また、和宇慶文夫・ビセカツ「沖縄芸能列伝」(丹躑躅山房)も、沖縄芸能の幅広さ、深さを教えてくれる内容の書であった。身近な沖縄芸能人が版画でページいっぱいに広がり、エスプリの効いたコメントを読むと、「この人たちの芸を観ることができて幸せだなぁ」と感じさせてくれる本である。

またウチナーグチの本も目立った。沖縄文化社「ひとことウチナーグチ」(沖縄文化社)は初心者向けの単語集としてまとめて方言のニュアンスや言葉を馴染みやすいものにし、青山洋二「うちなーぐち死語コレクション」(郷土出版)は、死語とタイトルしながらも、その良さを表現して方言の味わいや温もりを思い出させ、宜志政信「赤瓦と芭蕉布とB軍票」(ゆい出版)は、日本方言との共通点や語源、戦後生まれてきた新しいウチナーグチなどを掲載することによって、方言をやさしく解きほぐしている。これからも出版が期待されるジャンルであるが、新たな切り口での方言本の登場を期待したい。

自分史センター「孫への手紙」(情報テクノス)は、戦争を体験し、沖縄の復興を目の当たりにしてきた世代が、平和な時代に生きる孫への手紙文としてまとめた内容で、独自の視点が新鮮であった。自費出版では、照屋盛「語源を求めて」。宮古方言の語彙を種類別にまとめた書で、著者の豊かな感性も垣間見ることができた。他には幸地清秀「ヒルギの芽」。戦争体験や、キビ作農家として成功するまでの人生の哀歓を綴っている。

版元別では、今年も大城逸子「ちなみがいるだけでだんだんみんなが変わってきたよ」、やまもとひでき「コブシメの赤ちゃん」、ういず編集部「ういず」、平川宗隆「今日もあまはいくまはい」で健在ぶりを発揮したボーダーインク、砂川栄喜「きらめく生命」、山川文太「げれんサチコーから遠く」のニライ社、石島英・正木譲「沖縄天気ことわざ」、上里賢一・茅原南龍「琉球漢詩の旅」を発刊した琉球新報社、沖縄県高等学校地学教育研究会「おきなわの石ころと化石」の東洋企画、久手堅憲夫「首里城」のあけぼの出版が印象に残った。

他に、仲村清司「爆笑沖縄凸凹夫婦」(双葉社)、嘉手川学「沖縄チャンプルー事典」(東京書籍)も沖縄本として記憶に残るであろう。

これが今年の沖縄本。来年も面白く、楽しい本たちの登場を心待ちにしている。

(琉球新報社提供)

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