年末回顧 2002(県内・出版)

琉球新報 2002年12月23日 朝刊 文化面 掲載
宮城一春(県産本ネットワーク事務局)

近年にない物足りなさ 評判読んだ「読めば宮古!」

今年の出版物は三百九点が沖縄タイムスの出版文化賞において計上されている。もの凄いペースで出版されていた昨年より百八十点少なく、内容も、近年になく物足りなさを感じた一年であったように思う。今年は、書籍の出版数の少なさもあるが、県内書店の閉鎖や統合などが印象に残った年でもあった。出版王国として名を馳せている沖縄ではあるが、読者層の薄さが浮き彫りとなったともいえよう。このままでは、読みたい本や、読ませたい本を置いてある書店がどこにもないという状況が来るかもしれない。そのような危機感を感じながら過ごした一年でもあった。来年は、県内版元が一体となって行動を起こすことを期待している。

そんな中、特筆すべき売り上げと、評判を呼んだのが、さいが族編「読めば宮古!」(ボーダーインク)。宮古という沖縄の中でも特にパワフルな地域を主題とした書で、宮古人の宮古へ対する愛情が伝わってきた。売り上げも今年刊行の書籍の中ではダントツで、宮古の家庭には一冊ずつあるのではないかと思うほど。他の地域もこのような本を出版して欲しいと思ったのは私だけではないだろう。また、勝連繁雄「火祭り」(ボーダーインク)も印象に残る本であった。内容の濃密さは、山之口貘賞を受賞したことでも理解できるが、私の担当しているFMの番組で紹介したところ、問い合わせや反応が他を圧倒した。詩の持つ味わいが、朗読によってさらに倍加した好例となる詩集であったといえよう。このような書によって、これまで県産本に触れることのなかった読者層をつかんだということは、これからの出版にも良いヒントを与えてくれたのではないだろうか。

また、今年の私のオススメ本として紹介したのが、大城安弘「琉球列島のチョウたち」(鳴き虫会)。県内で身近に見ることのできるチョウの生態写真と、解説文で構成された書で、普段私たちが見ることのないチョウたちの姿が掲載されている。チョウを通して、沖縄の自然を感じさせてくれる書であった。そして、素朴な絵と文で構成され、四季の自然を通して身近に咲く花々の素晴らしさを感じさせてくれる、宮城かおり「わした島の花びより」(沖縄文化社)、家庭人としての移住者の視点から沖縄の風俗や自然をイラストと、自筆の文章で綴ったはやかわゆきこ「シマ・ナイチャーの沖縄散歩」(沖縄タイムス社)も、ぜひ読んで欲しいと思う好著であった。

分野別では、芸能関係書が目立った年であった。特に、真喜志康忠「沖縄芝居と共に」(新報出版)は、著者独特の語り口に、沖縄芝居への愛情が読みとることができ、芝居だけでなく、文章の世界でも存在感を味わうことのできる書であり、間好子「永遠の樽金」(おもろ出版)は、昨年亡くなられた間好子の生涯を余すことなく書きつづり、沖縄芝居人の芝居にかける情熱と、次代に伝えて欲しい芸能の世界を描いた作品であった。登川誠仁「オキナワをうたう 登川誠仁自伝」(新潮社)も、民謡だけでなく、映画やコマーシャルなどでも活躍する著者の魅力満載で、沖縄芸能人の健在ぶりと、生き様を存分に読ませてくれた。

そして、今年は復帰三十年であることを忘れてはならないが、琉球新報社は、「沖縄世替わり三〇年」、で、その健在ぶりをアピールした。新聞社ならではの写真の数々と、一年ごとや期間ごとの解説は、忘れてしまった事象や、記憶を呼び起こしてくれた。また、仲宗根政善「ひめゆりと生きて」(琉球新報社)も記憶に残る書であった。生涯を通して戦争の悲惨さと、沖縄戦を繰り返してはならないと訴えた仲宗根政善の日記は、これからも幾多の人々に読み継がれていくべき書であり、同時代に生きたことを忘れてはならないと思わせる本でもあった。

版元別では、おばあの方言をそのまま文章化した「おばぁが笑ってV」の週刊レキオ、真栄城勇「沖縄がらくた文化」の沖縄マリン出版、三木健「宮良長包」、宮城巳知子・成井俊美「ずいせん学徒の沖縄戦」で、今年も健在ぶりを示したニライ社、前述の二冊の他、仲宗根みいこ「ホテルハイビスカス2」、新城和博「道ゆらり」、「松山御殿」刊行会「松山御殿物語」など、数々の本を刊行したボーダーインクが印象に残った。

最後になるが、石川真生「沖縄ソウル」(太田出版)は、沖縄にこだわり、沖縄を撮り続ける著者の思いが、痛烈に伝わってくる書であった。混沌とした現在の沖縄の状況を、如実に表現した好著であったと思う。

少し寂しく思った今年の沖縄本だが、振り返ってみると、面白く、今年ならではの出版が多かったことが目についたような気がする。来年は、今年以上に、様々な、面白く印象に残る本の刊行を期待している。

(琉球新報社提供)

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